タイムワープツール

 NUENDOのタイムワープツールは、素晴らしい機能だ。機械のテンポに合わせるという非人間的な行為をしないで、人間のテンポに機械を合わせるということを可能にしている。これによって、僕たちは、演奏者と演奏者がクリックなしで演奏する、というごく当たり前のことを復活できた。

 演奏している時には、人間対人間の場合、お互いの音を聴きながら演奏する。しかし、自分の音も聴くわけであるし、自分でリズムを構築しながら演奏もする。そのことは、クリックを聴いて演奏することとタイム的に違ってくることを意味する。人間の演奏は、前へ前へと進む習性がある。クリックを聞くということは、常に受動的にならざるを得ないし、クリックを聴いてからでは遅くなる。

 もちろん、人間と人間が演奏をする時に、一緒にやった演奏そのものをライブのように、レコーディングとして採用できれば何の問題も起こらない。ただ、人間には時間的な制約がある。特に、近くに住んでいない人同士が演奏する場合、どうしても時間の制約は大きなものだ。だから、一緒にレコーディングしたデータを生かして、追加録音なり編集なりが必要となってくるのである。

 実際の僕が相棒とのレコーディングを生かして、やっていることを書いてみると。
 曲が出来ている場合は、ギターなり歌なりを仮録音して、それ以上は録音しないでおく。曲が未完成の場合は、曲を作りながら、ギターや歌を入れつつ、ほぼ完成となった時点で、もう一度ギターを仮録音しなおす。
 そうして、そのデータを基にして、波形を見ながら、ドラムスのテンポにあわせて、テンポを書き込んでいく。実際には、テンポの数字を書き込むのではなく、ドラムスの一つ一つの音に対して時間軸をずらしていく作業だ。ちょいと時間はかかる。

 こうすることによって、1拍1拍のテンポが異なることも多くなる。それが人間のリズムであるのだ。そうすることで、ドラムスのその曲に対するテンポというものを把握できることになる。

 テンポを書き込んでしまえば、あとは追加録音なり、MIDIでの録音なり、何なりと自由に出来る。ちょっと揺らぎすぎだな、と思うドラムスの録音であっても、そのテンポに合わせてほかの楽器を録音してみるならば、揺らぎをあまり感じなくなるくらいになっていくものだ。