音の要望の質

 距離が離れているということは、要望などの気持ちをため込んで、自分の中での不満分子を熟成させる、というメリットを生んだ。インターネットというリアルタイムに慣れ親しんでしまった僕は、知らず知らずのうちにせっかちな体質になっているのかもしれない。せっかちな人間の行き着くところが、ダウンロード数であるとか、人気ランキングという切り口だ。数が多いものを選んでおけば間違いない、あるいは世の中の動向がわかる、というデータ中心の世界は、どうしてもせっかちな世界を助長させる。

 音に対する不満あるいは要望は、くり返し聞くことで麻痺してくる可能性を持っている。他者と比較することで、逆に不満はより強くなる。この場合、どのような音にしたいか、そのことが一番重要な鍵を握る。これは多数決とは違う。どこを尊重するか、これはバンドによって異なってくるだろう。高額な時間給を費やすスタジオでなくて、自宅スタジオであるからいろいろ試行錯誤ができる時代になった。それは、プレイする側の要望が、そのままミックスに対する要望を加えて、よりアーティストの世界を表現できる時代になったということであろう。